研究部門

現代社会における社会的共通資本(SCC)の問題は、気候変動、都市、コミュニティー、医療、教育、金融、サイバー空間など、実に多岐におよびます。寄付講座では、主に以下のテーマに集中して、質の高い学術的貢献を目指します。

R1. グローバルコモンズ

気候変動に代表されるグローバルコモンズの問題を解決するための制度設計方法を開発します。グローバルコモンズの問題とは、地球という人類の共有財産(グローバルコモンズ)をいかに守るかという問題です。全市民の活動はCO2の排出などを通じて負の外部性をもたらします。それがプラネタリーバウンダリーを超えると、人類のみならず全生物に対して不可逆で壊滅的な被害をもたらします。この問題に真摯に向き合い、持続可能な経済社会を如何にして実現させ維持管理するかについて、経済学の英知を結集して考察します。この問題の重要性を指摘した故宇沢弘文の提唱した概念である「社会的共通資本(SCC)」を理論的に精緻化し、経済学のフロンティアとの関連を強化します

R2. 新しいコーポレートガバナンス

営利企業は市民に優れた財・サービスを提供する中心的担い手です。その一方で、公害問題など、外部性がもたらす社会問題の主要な加害者でもあり、社会的共通資本に悪影響を与える直接的な当事者です。営利企業はその社会的責任を今まで以上に要求されます。寄付講座は、コーポレートガバナンスの望ましい在り方を経済学的に解明します。ESG投資、インパクトファイナンス、ステークホルダー型統治、金融システムの安定性などの視点から、企業活動の向社会性を担保するインセンティブ設計方法を考案し、実証や実験を通じて社会実装の基礎を固めます。

R3. サーキュラーエコノミー

CO2排出による負の外部性に象徴される環境負荷を軽減するためには、天然資源を効率的に有効活用することが今まで以上に求められます。そのため、リデュース、リユース、リサイクル、さらにはカーボンニュートラルといった取り組みを進めていかなければなりません。線形から循環型へ転換する近未来社会(サーキュラーエコノミー・エコシステム)の設計について、LCAや工学系の技術開発とともに、経済学の視点からもグランドセオリーを提供することが不可欠です。環境負荷の評価情報が資源配分の効率化と環境負荷軽減の双方に役立てられ、さらには科学技術革新を適切な方向に導いてくれる、新しい市場経済制度の設計方法を考案します。

R4. デジタル経済社会システム

SCC寄付講座は、デジタル経済社会システムを、気候変動とならぶグローバルコモンズと捉えます。インターネット、携帯移動通信、AIやブロックチェーンによる情報処理管理技術の進展は、市民生活にボーダーレスな仕方で大きな影響を与えるようになりました。しかしその適切な管理を怠ると、デジタル技術は悪用され、ネット犯罪、サイバー攻撃、ビッグデータを使った不正行為など、人類に甚大な被害がもたらされます。寄付講座は、デジタル技術が人間的に魅力ある社会の実現に本質的な意味で貢献できるような近未来社会の制度設計の在り方を解明します。

R5. ダイバーシティ・インクルージョン

SCC寄付講座は、人間的に魅力ある社会の持続的な実現を目指します。そのためには、性差や人種など、異なる個人の属性が相互に尊重される「多様性(ダイバーシティ)」、全ての人々が分け隔てなく経済社会活動に参画できる「包摂性(インクルージョン)」について理解を深めていくことが不可欠です。ここで重要なのは、多様性と包摂性が持続的に達成されたとき、現代の競争社会に内在する構造的差別や格差がどのように、どの程度改善されるのか、という問いです。寄付講座は、この難解な問題解決のための足掛かりを、女性参画と労働力配分に関する歴史的、実証的考察などを通じて見出します

R6. 都市空間と地域活性化のための制度設計

SCCは「すべての人々がゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、 人間的に魅力ある社会を持続的安定的に維持することを可能にする社会的装置」と定義され、魅力ある生活空間がいかにして持続可能になるかを中心課題とします。都市と地域の在り方とその関係性はこの課題における直接的な問いです。日本は東日本大震災を経験し、コロナパンデミックを経て、改めて地域復興と都市空間設計の重要性に向き合っています。地域活性化は1世紀におよぶ日本社会の懸案事項でもあります。寄付講座では、東北地方を中心に漁業、林業、農業における共有財産(コモンズ)の管理の実態を調査するほか、労働力の移動を促進させる中途退職者市場の歴史的考察を行い、世代交代、経済発展、地域間交流の観点から新しい制度設計を提案します

R7. 公正と倫理の経済学

気候変動問題は、人類の尊厳や生存、さらには全生物の多様性に対する危機です。そのため経済学は、差別、格差、貧困、包摂、文化、さらには生物多様性をも明示的に扱うことができるような、公正と倫理の経済学を構築する必要があります。しかし経済学は、効率性に主要な関心を払ってきただけでなく、公正を狭く解釈して、結果の平等ないしは機会の平等に関心を限定してきました。本プロジェクトは、この限定にとらわれることなく、SCCに本質的に必要となる公正と倫理の新しい経済学を、規範と動機の両面から構築します。

R8. マーケットデザインの社会実装

SCC寄付講座は、様々な社会的課題解決の方法を追究します。そのため、競争的な市場原理が営利以外の多様な社会的インパクトの達成にも応用できるのかどうかは重要な問いになります。オークションやマッチングに代表されるマーケットデザインが人間的に魅力ある社会にどのような仕方で本質的に貢献できるかを、具体的な制度設計を示すことによって解明します。